こちら、筆者が履き倒しているドクターマーチンの3ホール黄色ステッチである。
なお、ドクターマーチンのガラスレザーに限ってはテカらせてナンボだろ陣営なので、あえて光沢を出している。
2年以上履いているので、ソール部分は随分とすり減っている。
さて、ドクターマーチンの素晴らしさと、マーチンをめぐる風評について、私見を語っていくとしよう。
筆者がドクターマーチンを購入するまで
筆者がオフの日に履いているのは、ドクターマーチンの3ホール黄色ステッチ、安藤製靴のワークブーツ(OR-6)、トレーニング用のランニングシューズの3足だけだ。
稼働率トップはもちろんドクターマーチンである。
そんな筆者がマーチンを買ったのは2022年の夏である。
ドクターマーチンのことを認知しつつも、いまいち食指の動かなかった筆者の心を動かしたのは、エガちゃんねるの下記の動画だ。
ミーハーな筆者がドクターマーチンを購入したのは、動画を視聴した翌日である。
筆者がドクターマーチンに惚れ込むまで
正直に告白する。
買ってすぐに後悔した。マーチンを買ったことを猛烈に後悔した。
頑丈に作られすぎていて、靴擦れのダメージがエグい。アキレス腱を鬼ほど削ってくる。
いずれ馴染むだろうと数回履いたが、拷問かと思うほどの靴擦れの痛みに耐えられず、筆者の心は折れた。
購入したドクターマーチンは、かくして、すぐに靴箱の奥の方にしまわれることになる。
そこから数ヶ月が流れ、秋だか冬だかの季節になり、筆者はドクターマーチンを靴箱から取り出すことになる。なんとか履いてみようという気持ちに心変わりしたのは、わりあいに消極的な事由からである。
レギュラーだったキャンバスシューズの汚れがいよいよ深刻になり、普段履きの靴を新調する必要性に迫られた、というのが心変わりの理由である。筆者は靴を買いに行くのが億劫だった。嫌で仕方なかった。自分の気にいる靴を新しく探すストレスは、靴擦れの痛みを回避するために色々と試行錯誤する面倒さを上回っていた。
なんとかしてドクターマーチンを履いてみようと一念発起した筆者は、まずアキレス腱を守るために、マーチンのかかと部分にクリームを塗って塗って、揉んで揉んで、ほぐしまくった。それでも履くと痛いから、靴下を二枚履きしてくるぶしを守った。
そんなこんなで、かかと部分の靴擦れがなくなった頃には、ドクターマーチンのない人生など考えられなくなっていた。
- 雑に足を突っ込んでもスルっと履ける
- どんなコーデにもあわせられる
- クッション性能の高さゆえ脚への負担少なめ
- 山や海にも履いてゆける
- 雨の日も気兼ねなく履ける
- メンテナンスが楽
- 数年履けるから靴代の節約になる
- ソールが分厚いから、身長が心持ち高く見える。
「こんなに素晴らしい靴があるのか」
筆者はすっかりドクターマーチンの虜になっていた。
マーチンに対する風評に囚われていた時期
マーチンが愛靴になってからしばらく、筆者はマーチンについているネガティブなイメージに毒されていた。
- 「所詮、大学生が履く靴」
- 「大人の履く靴ではない」
- 「安物の靴」
- 「没個性」
- 「量産型のアイコン的アイテム」
- 「ブランドのイメージが青臭い」
- 「デザインがダサい」
- 「黄色ステッチがダサい」
いずれのコメントも流行や文化、市場や経済など観点に立脚した主張であり、論筋に異様な殺傷力がある。
ここからが大切だ。マーチンがイケていない主張に反論しなければならない。出回っているマーチン擁護の記事を筆者は漁った。結果、反論は次の三つのパターンに大別されることが分かった。
- 「(マーチンを褒めそやしているコメントを引っ張ってきて)こう考えている人もいるのでマーチンはダサくない」
- 「ダサいと思われないためには黄色ステッチ以外のマーチンを選ぶとよい」
- 「昔のロッカーが愛用しており、パンクカルチャーの系譜上にあるマーチンは、自己表現手段のひとつ」
これらの反論コメントについては『マーチン ダサい』で検索すればすぐに確認できる。そして、上記三つ以外の切口からの反駁は全くと言ってよいほど見受けられなかった。
読んでどう思っただろうか。どれもが本質的ではなく、それどころが「マーチンはダサい」という見解の補強に一役買っている節すらあるのではないかという印象を覚えたのは筆者だけだろうか。
ひとつひとつ、具体的に見ていこう。
「(マーチンを褒めそやしているコメントを引っ張ってきて)こう考えている人もいるからマーチンはダサくない」
なんだろう……このモヤッとする感じ。
「マーチンはダサくないと考える人がマジョリティである」という母数の規模から論理を展開しなければならないのに、全体の何割を代表しているかもわからない声を引っ張り出して「だからダサくないんです!」と断言しているこのコメント。擁護されている側からしても、モヤモヤするのである。X (Twitter)等のSNSじゃなくて、てめえ自身の言葉で語っていないのもモヤッとポイント。
「ダサいと思われないためには黄色ステッチ以外のマーチンを選ぶとよい」
おいこれ……「基本的にマーチンはダサいもの」と認めてしまっていないか……。なお、この反論を書いている記事は、大体がアフィカス記事である。マーチンを売ってお金儲けしたいからこんなことを書いているのが見え見えである。
マーチンがダサいとされている風潮は、マーチンの広告を打って利益を得ようとしているアフィカスによる印象操作が大いに影響していると筆者は考える。つまり、「マーチン=ダサい」という潮流は、どちらかと言えば味方陣営であろうマーチンの営業者に背中を刺される形で醸成されている側面もあるのではないか。
「昔のロッカーが愛用しており、パンクカルチャーの系譜上にあるマーチンは、自己表現手段のひとつ」
一番マシな反論である。しかし、「周りからなんと思われようが、俺はマーチンを履くんだ!」という、どこか倒錯した精神が隠しきれていない。この主張にのっかって、同じ精神レベルまで降りていくのはごめんこうむりたい憾みがある。プラスアルファで述べると、パンクカルチャーとかロックとかに興味のない人間である筆者はどんな気持ちでマーチンを履いたらいいのですか。
マーチンはダサいという主張に対する反論が、一体全体、こんな調子だから、マーチンをいくら気に入っているとはいえ、どこか惨めな気持ちになってしまう。これを読んで 「マーチンを履く自分が好きです!」と思えるようになった人間がどれほどいるだろうか。
ただ、機能面で申し分のない靴であるがゆえに他の靴を履く気にもなれず、澱んだ気持ちで、足首をマーチンに突っ込む。履くのは履くのだが、履くたびに、黄色じゃなくて白か黒のステッチのマーチンを買えばよかったと、うじうじしたことを思う。そんな自分にウンザリもしていた。
誇りかにマーチンを履く背骨となるような何かしらの哲学を筆者は渇望していた。
心底、マーチンが好きだと思えた転機
いまでこそ3ホール黄色ステッチのマーチンこそが至高と考えている筆者だが、価値転換が起こった経緯について語ろう。
それは、自分もマーチンを持っている人と会話した日のことだった。
はじめは楽しく会話していた。
マーチンの履き心地や耐久性
マーチンをどこで買ったのか
どういうときにマーチンを履くのか
マーチンの手入れはどうしているか
五分ほど話していただろうか。
わたしは、次のように発言した。
「黄色ステッチだとすぐにマーチンって気づかれちゃいますよね」
その人が持っているマーチンも黄色ステッチだと思って話したことだ。深い意図はない。
その人はこう答えた。
「それが嫌で、僕が持っているのは黒色ステッチなんですよ」
それが嫌で、持っているのは黒色ステッチなんですよ……
それが嫌で、黒色ステッチなんですよ……
嫌で、黒色なんですよ……
パラダイムシフトが起こった。
黒色ステッチか白色ステッチにすればよかった、と悔いていた私が、鏡のように、目の前の男に投射され、自分の分身として眼前に客体化された。その分身は「黒色ステッチのマーチンを買った世界線」の筆者である。
ああ、この人は「マーチンをあからさまに履いているよプークスクス」と思われたくなくて、黒ステッチを買ったのだな。
素朴にそう思った。
そしてこれは、私自身に対して、そっくりそのまま跳ね返る所感でもあった。
私は続けて思った。
そういうのって、なんか男らしくねえな……
白や黒のしたステッチは、世間の目を気にしている己の臆病さを象徴しているのと一緒ではないか。
白や黒のステッチのマーチンを履くという行為は、自分のファッション感覚がネットの情報に毒されていることを喧伝しているのと同義ではないか。
これはあくまで私がそう思ったというだけの話なので、深くは捉えないでほしい。
ともあれ、その人と別れた後に、わたしは街中で履かれているドクターマーチンを思い返した。(マーチンユーザーは他の人の履いているマーチンに自然と目がいくものだ)。
これまでに目にしたのは、シワのない新品マーチンか、ロクにメンテナンスもされていない汚らしいマーチンか、そのどちらかしか無かった。
では、どういうスタイルが、最もカッコよくドクターマーチンを履きこなしていると言えるだろうか。
そのイメージは、スルッと頭に降りてきた。
3ホール 黄色ステッチの、誰が見ても「ドクターマーチンだ」と分かる靴を履いているアラサーのおじさんが居る。
だが、そのマーチンはピアノのように磨き上げられており、黒光りを放っている。かといって、新品のような初々しさがあるかというとむしろ真逆で、履いてきた年季の厚みが伺えるシワが深く穿たれている。
没個性なはずのマーチンから におい立つ、渋く、エレガントなおっさんの美学。
大学生のガキにはできない履きこなし。
これこそが一番かっこいいマーチンの履き方だと思った。
このイメージが脳裏に降臨してから、筆者は、半年に一回くらいだったマーチンのメンテナンスを隔週で行うになった。そして、黄色ステッチに愛着がわくようになった。
いまや、黄色ステッチでないと嫌だとすら感じる。
「マーチン履いているよプークスクス」と相手に思わしめるには、3ホールの黄色ステッチのマーチンでなければいけないのである。そして「……でもかっこええな、あのマーチン」という複雑な感情を相手の裡に生起せしめるにあたっても、3ホールの黄色ステッチのマーチンでなければダメなのである。
ちなみに筆者は、リアルで「めっちゃ似合っていますね」「綺麗に履いていますね」などのお褒めの言葉を頻繁に頂戴している。人間、足元を見たら『一つの靴を、長い時間、大切に履いている』というのはすぐにわかるものである。
そして、それを体現するのに最高のアイテムがドクターマーチンのホール3 黄色ステッチだと筆者は主張したい。
黄色ステッチに染み付いたダサいイメージを逆手に取り、ダサいものを誰よりもカッコよく履きこなす勝負に打って出るスタイル。それは、最弱の格闘キャラで、大会で勝ち進んでいく快楽と似ている。そんなスタイルを持てる自身のことが、筆者は好きで好きで仕方がない。自画自賛である。手前味噌である。でも好きだから仕方ない。
このスタイルを開発したことによって、筆者は「ダサい靴を履いている」という鬱屈とした感情を成仏させることができ、心の底からマーチンのことを好きになることができた。
今履いているマーチンは、つま先の革が裂けつつあり、そろそろ買い替え時である。当然、3ホールの黄色ステッチを買うつもりだ。そしてこれからも、黄色ステッチの3ホール以外、買うつもりはない。
筆者のマーチンのメンテナンス方法
某掲示板を覗くと「ドクターマーチンはメンテ不要のレザーなのに、クリームを塗るとかネタでしかない」というレスがある。調べたところ、頻繁なメンテナンスがマーチンのレザーの寿命を短くするのは事実のようであった。
だが、冒頭で述べたように、私はピカピカのマーチンこそが最もクールだと考えているし、ガタがきたら買い替えればよいと割り切っているので、レザーへのダメージは気にせず、隔週のメンテナンスを行っている。
具体的なメンテナンス方法は次のとおりだ。
ブラシでブラッシングした後に、靴用液体クリームを塗り塗りする。液体クリームが乾いたらタオルでゴシゴシして光沢を出す。
気をつけるべき点として、靴用液体クリームの塗り方によっては、レザーの上に泡が立つ。それを乾くまで放っておくと、結構目立つダマになるため、泡が浮いたら乾く前にブラシとかで潰すとよい。
ちなみに使っている靴用液体クリームは下記だが、黒色クリームであればなんでもよいと思っている。