平成サバイバーの彷徨

『他の誰もが無条件で受けている尊厳を戦い取らねばならぬ者へ』

夕木春央『方舟』のifの世界線を考察する

本記事はネタバレを含みます。

夕木春央氏の『方舟』をまだ読んでいない方は、まずは原作を読了されたあとに本記事をご覧になることを強くお勧めします。

衝撃のラスト!と喧伝し、みずから高いハードルを設定している作品ですが、そのハードルを軽々と超えていくほどに凄まじい結末でした。リーダビリティ性の高い文体で書かれた良質なミステリーで、本屋大賞候補にもなっており、読んで損はないと保証します。

 

以下、しばらくスクロールすると、記事の本文になります。

 

 

 

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繰り返します。ネタバレあります。

 

 

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後味、悪すぎンゴ。

 

花ちゃん、意味深な挙動多すぎるて……
読み返しても宇宙人すぎる……

 

ハーネスできあがったら一人でこっそり脱出しろよ麻衣……
どんだけラブチェックしたかったん……

 

『五人の絶望の絶叫が遠く聞こえた』ってなに……
絶望の絶叫は語感わるいて……

 

メンタルがブレイクされて日常生活に支障がでているので、Ifの世界線として、彼ら10人のうち一人でも多くが救われるような脱出方法を考え、自分の心も救おうというのが本記事である。

ミステリーに対して野暮な考察をしていることは承知の上である。なお、ガチ考察をしたために13,000文字を超える文量になったので、そのつもりでお読みいただきたい。

 

 

方舟の構内環境について整理する

方舟の構内図には二種類のデータがある。

 

左図は小説に載っている図で、右図は漫画に載っている図である。縮尺は微妙に違うが、ほぼ一緒なので、小説版の左図に準拠して考える。

次に、出入り口(地下1階〜地上)、非常口(地下3階〜地上)について具体的なイメージを掴む必要がある。そこで漫画のシーンを確認した。

 

(貼り付けてあるシーンは、無料公開されているキャプターです。)

 

一つ目の画像は「出入り口のハシゴ」、二つ目の画像は「非常口の水没したハシゴ」である。

 

ここからは方舟構内の諸々の環境要因について、ひとつひとつ調べていく。

 

①出入り口のハシゴ(地下1階〜地上)の長さ

小説に次のような記述がある。

ここは地下一階だった。それでも、地上からは十メートル近く潜っている。
夕木春央. 方舟 (講談社文庫) (p.6). 講談社 

方舟の断面図、ハシゴの具体的イメージを参考にすると、出入り口のハシゴの長さは厳しく見積もって15メートル程度だろう。

 

②非常口のハシゴ(地下3階〜地上)の長さ

これを計算するためには地下2階の床から地下3階の天井までの高さを出す必要がある。

まず、方舟の構内断面図のうち、階段の部分を確認する。よく目を凝らせば、段数が数えられる。実際に数えてみたところ、小説版の図も漫画版の図も階段は20段だった。

建築基準法によると階段の膝上は23センチ以下と定められているが、方舟を作るような人間が法律を守るとも思えないので、25センチと考える。後述するが、浸水の速度は1日25センチであるから、これと一致する。

25センチ×20段だから、地下2階の床から地下3階の床までの高さは5メートル。

地上から地下1階までは15メートル、地下1階から地下3階までは5メートル×2階層分で10メートルだから、非常口のハシゴ(地下3階〜地上)の長さは25メートル。なお、ハシゴの25メートルのうちの5メートルが水の中にあり、1日25センチずつ水没していく。

 

③天井の高さと、階高(上層の床から下層の天井まで)の厚み

地下2階の床から地下3階の床までの高さが5メートルであるから、地下に作られたこの建築物の各階層の天井の高さは3.5メートル、階高は1.5メートルに設定する。

ChatGPT調べによると、一般的な家の天井の高さは2.5メートル程度、地下施設の床から天井までの厚さは1.5〜2.0メートルであるらしいので、おおむね一致している。

 

④構内の端から端までの距離

方舟構内の端から端までの距離については小説内で具体的な記述がある。

「そうそう。こっちが入って来た出入り口。で、こっちが、橋の近くの非常口な」
「じゃあ、この二つは百メートルくらい離れてることになる訳だね」

夕木春央. 方舟 (講談社文庫) (p.31). 講談社. 

方舟構内の平面図を確認すると、どうみても50メートルくらいである。縮尺がバグっているように思われるが、はっきりと100メートルと書かれてあるので仕方がない。100メートルに設定する。

地下3階は4つの大部屋があるため、一つの大部屋からもう一つの大部屋までの距離は25メートルになる。

 

⑤天井、床、壁の素材

小説の描写を鑑みるに、天井、床、壁には、鉄板が敷き詰められているようだ。

(廊下の)足元は、鉄骨に鉄板を溶接してビニールを張った工業的な床。壁もやはり鉄板が使われていて、区画によっては岩肌が剥き出しになっていた。夕木春央. 方舟 (講談社文庫) (p.6). 講談社. 

漫画の無料公開シーンを確認しても、金属板が四方八方に敷き詰められていることが確認できる。

なお、シーンによっては、廊下の床が明らかに土の質感であるが、金属板ということにしておく。ここで、重要になるポイントは、土の上に被せるように鉄板が敷かれてある、という点。

 

⑥巻き上げ機が置かれてある部屋の天井、床、壁の素材

漫画の無料公開シーンを確認する限り、土あるいは岩石であるように見受けられる。床まで岩石とはさすがに思えないので床は土、壁と天井は岩石であると仮定する。

 

⑦方舟を取り囲む土壌の構成と排水設備

小説の記述を参照する。

「地下だからな。それに素人の建築だから、浸水くらいするだろう。天然の岩に囲まれているから、当然といえば当然だ。排水設備も壊れてるんだろうな。このせいで地下建築が放棄されたのかもしれないね」夕木春央. 方舟 (講談社文庫) (p.26). 講談社

方舟の壁は天然の岩に囲まれており、排水設備の修理は不可能。ただし、素人の建築である(高度な土木技術は用いられていない)。

 

⑧大岩の重さ

大岩の重さについて考える。巻き上げ機で引けば動くような重さだろ、と当初は考えていたが、密度3,000kg/m^3の岩石の大きさを4立方メートルとして計算したところ12トンほどであった。

手動の巻き上げ機で動かせるのか疑問に思い、調べてみたところ、5〜10トンまで扱えることがわかった。なるほど、傾斜を利用すれば大岩を動かせないこともなさそうだ。

なお、一人が綱を引いた時の引力は100〜150キロ程度。十人併せても1.5トンくらいにしかならない。大岩そのものを引っ張るということは難しいだろう。

 

⑨タイムリミットについて

小説の記述を参照する。

一週間がタイムリミットだろう、と翔太郎は言った。さっきさしがねで測った分をもとにざっと計算すると、それくらいで地下二階の床上1メートルまでが浸水する。それ以上になると、巻き上げ機の操作が難しくなる。また、ちょうどそのころに発電機の燃料が切れる。真っ暗になった地下建築内で冷静でい続けることは難しいだろうと思われた。
夕木春央. 方舟 (講談社文庫) (p.75). 講談社

三日目で、地下2階の浸水がはじまるから、残りの四日で1メートル浸水する。つまり一日、25センチずつ、水のかさが増していることがわかる。

前述した通り、床から天井までの高さが5メートルであるから、三週間で地下1階の浸水がはじまる。ただし、発電機の燃料は一週間しかもたないから、三週間のうち二週間は暗闇の中。

 

方舟の構内にある道具を把握する

脱出のために使える道具はどのようなものがあるかを把捉するために、小説の記述を一つ一つ確認していった。調べた結果を下記に示す(漏れがあったらすまん)。

  1. 長い鎖に手枷と足枷のついた拘束具
  2. 座面が妙に尖っている真っ黒い鉄製の椅子
  3. 太い木に革を巻いた棍棒
  4. 古い絆創膏や爪切り、それに鉛筆やボールペンなどの文房具
  5. プライヤー、ニッパーなどの電気工事用の工具
  6. 絶縁テープ
  7. 十リットルのタンク二本(残量三分の一)
  8. レギュレーター二つ
  9. 水中用のマスクが複数
  10. ウェス、トイレットペーパーの替え、ティッシュ
  11. ほうき、スポンジ、雑巾などの掃除用具
  12. 古いチェンソー
  13. 丸ノコ
  14. 機械油の缶
  15. アルミのパイプ(50センチほどか)が数本
  16. 針金
  17. 長い木製の柄のついた枝切り鋏

【参照した記述】

最初に目についたのは、長い鎖に手枷と足枷のついた拘束具である。一番奥に置かれているのは、真っ黒い鉄製の椅子で、座面が妙に尖っていた。さらには、太い木に革を巻いた棍棒や、どうやって使うのか、人の頭が入るくらいの金属の枠に、万力状の金具が付けられた器具。赤茶けた釘や、コンクリートブロックなどもあった。夕木春央. 方舟 (講談社文庫) (p.22). 講談社

裕哉は、機械室のデスクの引き出しを開けた。古い絆創膏や爪切り、それに鉛筆やボールペンなどの文房具が雑多に詰め込まれている。夕木春央. 方舟 (講談社文庫) (p.27). 講談社

彼は、紺色の塗装がされた工具箱を持っていた。中は、プライヤーだのニッパーだの、電気工事用の工具が揃っていた。絶縁テープも入っている。夕木春央. 方舟 (講談社文庫) (pp.82-83). 講談社

それは、ダイビングで使うタンクだった。広い地下建築だから、たまたま、これまで僕の目にも翔太郎の目にも入らずにいたものである。タンクは、十リットルのものが二本あった。さらには、近くを探すと、タンクの隣のプラボックスに、空気を吸うためのレギュレーターが二つと、水中用のマスクなども揃っていた。しかし、タンクを背負うためのハーネスや、潜水に必要なウェイトなどは見当たらなかった。二本のタンクに残圧計をセットすると、どちらも空気は三分の一ほど残っているようである。夕木春央. 方舟 (講談社文庫) (p.84). 講談社

ウェスの他には、トイレットペーパーの替えやティッシュ、それから、ほうきやスポンジなど掃除用具が置かれた倉庫である。夕木春央. 方舟 (講談社文庫) (p.143). 講談社

やって来たのは207番の工具の倉庫である。六角レンチを探したときに全員で入ったから、みんなここには馴染みがある。翔太郎は、年季の入ったプラスチック製のコンテナを棚から下ろした。工具を入れたコンテナは種類別にいくつかあって、これは刃物類を収納したものである。開けると、糸ノコや金切りノコ、剪定用ノコなど様々なのこぎりがぎっしりと入っていた。夕木春央. 方舟 (講談社文庫) (p.143). 講談社

この倉庫は、地下建築の中でも比較的整頓がされていた。音がうるさすぎて使う訳にはいかなかっただろうが、古いチェンソーや丸ノコも置いてある。機械油の缶や、雑巾などもきちんと棚に並べてあった。地震で散乱した品物を、レンチ探しのときに、ついでのように棚にしまったのだ。夕木春央. 方舟 (講談社文庫) (p.144). 講談社

色付きのゴミ袋か、ビニールシートがあれば良かったのだが、地下建築には透明のゴミ袋しかなかった。夕木春央. 方舟 (講談社文庫) (p.154). 講談社

鉄扉の奥に物干し竿のようなものを差し込んでいた。(中略)よくよく見ると、それは、アルミのパイプを三本、針金で縛って、物干し竿くらいの長さにしたものだった。夕木春央. 方舟 (講談社文庫) (p.188). 講談社.

その向かいの壁の近くの水中には、長い木製の柄のついた枝切り鋏が落ちていた。夕木春央. 方舟 (講談社文庫) (p.214). 講談社

 

一人でも多く脱出できる方法を考える

さて、本記事のメインディッシュだ。

これより、一人でも多く脱出できる方法を考え、方舟の胸糞シナリオに対するアンチテーゼをお目にかける。

 

①モニターの入れ替えが無く、脱出路が非常口(水没ルート)である世界線

仮定する世界線の一つ目は、ホワイトな麻衣が登場する。

つまり、モニターから非常口が脱出路になることを知った麻衣は「モニターを入れ替えよう」などサイコパスな発想をせず、事実そのまま、みんなに共有する。

夢のような世界線だ。さて、脱出方法を考えよう。

 

 

【脱出プラン①】二人が先に脱出して、助けを呼びに行く

モニターの動画を入れ替えるアタオカさえいなければ、助けを呼ぶこともできたのに、と誰しもが思っただろう。

しかし、この世界線の麻衣はホワイトである。

食料もある。

地下1階が浸水するまでなら三週間以上の猶予がある(うち、二週間は暗闇の中で過ごすことになるが)。

つまり、助けを呼びに山を降りて戻ってこられるくらいの時間的余裕がある。

山で遭難するリスクを考慮し、助けを呼びにいくのは、裕哉とポンコツ家族のパパの二人を選定するとよいだろう。どちらも土地勘のある人物で、パパに限ってはママと息子が方舟に残るわけだから、死に物狂いで動いてくれるはずだ。

いくら有栖川有栖氏が、助けを呼びに行くのは非現実的とあとがきで主張しようが、普通はこうするでしょう。さっさと助けを呼びに行くプランをボツにする理由がまったく理解できないが、有栖川有栖さんのように10人が考え、このアイデアが棄却されたものとして、次のプランを考える。

 

 

【脱出プラン②】非常口ハシゴまでの最短経路を開拓

地下2階の219号室と220号室の間にある床に穴を掘れば、非常口のハシゴまで5メートルちょっと泳げば到達できるルートが出現する。

地下2階の床と地下3階の天井は金属板で覆われているため、古いチェーンソーで金属部分をけずって剥がし、手元にある道具を使って2メートルの厚みのある土を掻き出す必要がある。土が硬い場合は、水をかけてふやかしながら掘削する。

鉄板を剥がすことができるかどうかに成否が掛かっており、できるかできないかは古いチェーンソーで一時間試せば判断できるはず。頓挫した場合、次のプランへ。

 

 

【脱出プラン③】ハシゴまでの100メートルを全員が泳ぎ切る

全員で泳ぎ切ることを目指す脳筋アプローチである。

一般的な人間が息継ぎなしで泳げるのは25〜50メートルであり、100メートルを息継ぎなしで泳ぎ切るのはほぼ不可能。

しかし、ポンコツ家族3名と迷探偵を除く6名はダイビング経験者である。ロープのようなものを手繰り寄せてハシゴまで辿り着けるようにしたならば、そして酸素補給ポイントを33メートル地点と66メートル地点に設けたならば泳ぎ切ることも可能ではないか。

なお、10リットルのタンクで90分潜ることができる。酸素の残りが三分の一ならば、20〜30分は潜ることができるだろう。

 

●準備

まず、100メートルの長さのある頑丈なロープを作る必要がある。第一の難関である。

自分のズボンや服を引き裂くと1人あたり5メートルのロープを編める。それが10人分。ほか、寝袋のマットやロープやら諸々の素材を使って、なんとかして100メートル分のロープを用意する必要がある。頑丈であればあるほどよいので、繋ぎ目は結ぶだけでなく、絶縁テープなどで補強する。

ロープの作成と並行して、ハーネスを二人分、用意する。また、素潜りによる肺の拡張訓練、地下3階の薄暗い水の中を泳ぐ練習、ダイビング経験者と連携した水中での酸素ボンベのエア共有訓練なども併せて行う。

なお、エア共有は非常に難易度の高い技術である。限られたタンクの空気を使って練習するわけにもいかない。こうした環境のもと、ダイビング技術のある人の教示を受けながら、エア共有をマスターする必要がある。これが第二の難関である。

 

●決行日のプラン

  1. ダイビング技術と身体能力の総合力の高い2人、AさんとBさんをピックアップし、2つのタンクを背負う。タンクの酸素がもつのは20分。これがタイムリミットになる。
  2. Aさんはロープを持ち、ハシゴのあるところまで突っ切って、ロープをハシゴに巻き付けて固定する役割を担う。もう一人のBさんは、ロープがたわんだり、変なところに引っ掛かったりすることのないようケアをする。
  3. ロープには10〜20メートルおきにライトをつけたスマートフォンをくくりつけ、目印となる明かりをつくる*1。また、ロープのスマートフォンをくくりつけてある部分は、ふわふわと浮くことのないよう、水より比重を重めに作る。
  4. ロープをくくりつけが完了した合図は、スマートフォンの「探す機能」のオンオフを使って行う。この機能はオフラインでも使えるはずで、スマホは真空パックの中に入れておけば水中でも操作できる(検証済)。スマホで合図できない場合は、タンク担当が潜って五分が経過したらロープのくくり付けが完了したものとみなすなど、あらかじめ時間を決めておく。
  5. ロープのくくりつけが完了次第、重りを体に巻き付けて階段でスタンバイしている一人目が水の中に入る。ロープを手繰り寄せながら、大部屋のひとつめのドアを通過し、ふたつめのドアの手前にある中間地点(33メートル地点)でBさんとエア共有を行う。そしてまたロープを手繰り寄せながら進み、ふたつめのドアとみっつめのドアの中間地点(66メートル地点)でAさんとエア共有をする。最後に一踏ん張りして残り33メートルのロープを手繰り寄せ、ハシゴを掴んだら6メートル超を一気に駆けのぼり、水の中から脱出する。水の中をゆったり泳いでも秒速1メートルは進むため、ロープを手繰り寄せながらならば一分以内に50メートルは進めるだろうという見立てである。必要以上の酸素と体力を消費しないよう、ゆっくりロープを手繰り寄せるくらいでちょうどいい。
  6. 二人目は、一人目が出発したちょうど一分後に潜水。三人目は、二人目が出発した一分後。これを八人目まで繰り返し、最後にタンク役の二人が非常口ハシゴの場所まで戻り脱出。タンクには5〜10分耐えられるだけの酸素が余るが、エア共有で酸素消費が激しくなることを想定するとギリギリだろう。

手順としては上記の通りだが、普通ではない状況のため、メンバーの誰かがパニックになる可能性が高い。併せて、エア共有自体がなかなか高度な技術であることを考慮し、ひとりがタンク内の酸素を大量に消費してしまうことのないよう、タンク役以外の8名はダイビンクスキルの高い順にスタートさせるようにする。

迷探偵は五番目、ポンコツ家族は当然、ラスト3である。息子→父親→母親の順に潜水してもらう。息子を一番に助けたいだろうから、息子は六番目。息子がパニックになった時のフォローを期待できる父親は七番目。情緒に不安のある母親はパニックになる未来しか見えないのでトリの八番目をつとめる。

パニックになった人は見捨てる取り決めを事前に交わしておく必要があるだろう。

このプランの失敗要因として考えられること

・100メートルのロープを用意できない
・エア共有がスムーズに行えない
・ロープが水中でふわふわと浮いてしまう

すくなくともポンコツ家族三人を除く6人は救えるプランであると考えるが、これすら失敗したら、打つ手はない。他に何かあれば、コメント欄でぜひご提案いただきたい。

 

 

②モニターの入れ替えが無く、脱出路が出入り口(岩石ルート)である世界線

二つ目に仮定する世界線も、麻衣はホワイトであるから、モニターの入れ替えは起こらない。しかし、土砂で埋まっているのが出入り口ではなく、非常口である場合だ。つまり、大岩をどうにかしないといけない状況である。

まず大岩まわりのメカニズムについて、漫画の無料公開シーンから確認しよう。

 

つぎに小説にある記述から、決行不可能な脱出方法の条件を確認する。

これまでにも、検討してはみた。例えば、大岩をロープで括って、小部屋の外側から引っ張ったらどうか? ──鉄扉の縁にロープが当たってうまくいかない。それに、頭上の大岩にしっかりとロープを引っ掛ける方法がない。あるいは、岩の落下するところに、コの字形の台を置いておく。小部屋の中で、誰かが巻き上げ機を操作し、台の上に大岩を落とす。そうしておいて、中の人物はコの字形の台の下を潜り抜けて小部屋を脱出する。最後に、鉄扉の外から台を破壊し、大岩を完全に落下させる。この方法は、大岩の重量に耐えられる台を調達できないために、却下となった。地下建築内の椅子や机は板が腐りかかっているし、スチール棚は加工する方法がない。それだって強度が足りないだろう。  一番うまくいきそうなのは、丸太で頑丈な台をつくり、その上に大岩を落としてから、油をかけて火を放つ方法だったが、もちろんそんな材料はないし、二階に水が溜まり始めた今となってはできるはずもない。結局、残っているのは、今矢崎一家がやっているような望み薄のばかばかしい手段だけなのだ。夕木春央. 方舟 (講談社文庫) (p.189). 講談社.

 

 

【脱出プラン①】巻き上げ機のある部屋に穴を掘る

巻き上げ機のある部屋は地面が土なので、ひたすらに掘りまくる。硬い部分は水でふやかして、2メートル以上の深さのある穴を掘るのが望ましい。穴に大岩をはめて、地下2階の廊下に這い出るスペースを岩の上につくることが狙いである。

これならば誰かを犠牲にするということがなくなるため、全員が生存できる。頓挫する理由が思いつかないほど完璧な脱出プランだと思っているが、ダメだった場合は、次のプランへ。

 

 

【脱出プラン②】大岩と巻き上げ機をつなぐチェーンそのものを引っ張る

ダメだろうなと思いつつ、試す価値はあると思うので書く。

  1. 10人で引っ張ってもびくともしないロープをなんとかして編みあげる
  2. 巻き上げ機を大岩が落ちるギリギリのところまで巻く
  3. 大岩と巻き上げ機を繋ぐチェーンにロープを引っ掛ける
  4. 地下二階の廊下にまで伸びているロープを十人で全力で引く
  5. 岩が落ちたなら成功

10人で引いたところで、せいぜい1.5トンの引力のため、巻き上げ機の10トンのパワーには及ばない。成功したらラッキー程度に捉える。

 

 

【脱出プラン③】巻き上げ機のレバーにロープを繋いで十人で引っ張る

シンプルだが、成功率は高いと考えている。たかだか10〜20メートルのロープが用意できないとも思えないし、巻き上げ機の形状から考えて、できないはずがないのだ。

  1. 巻き上げ機を大岩が落ちるギリギリのところまで巻く
  2. 巻き上げ機のレバーにロープをくくりつけて、十人でロープを引っ張る
  3. 滑車の原理が働くよう、ロープの位置を調整したりレバーのまわりにひっかけ直したりしながら支点をつくり、巻き上げ機を少しずつ回していく。一人が直接、手で回すより強い力がレバーにかかるため、少しずつではあるが、全く動かないということはないだろう
  4. これを大岩が落ちるまで繰り返す

巻き上げ機が壊れたとか、チェーンが切れただとか、原作の前提となっている設定を破壊するような事態が起きない限り、これでいけるはずだが、これも失敗したとしよう。

 

 

【脱出プラン④】大岩を破壊する

書いておきながら、一番無理だろうなと思っているアプローチ。

まず、地下一階の大岩に塞がれた鉄製のドアを外す。古いチェーンソーから丸ノコまであり、工作道具も揃っているから、内ドアだとしても外すだけなら不可能な仕事ではないと考える。

大岩の肌が見えたら、六角レンチなどの工作道具を岩の上部に打ち込んでいく。大岩は球体であり、自然界にない形状のため、加工可能な程度の硬さだと考える。柔らかい岩なら銅製のピック、硬い岩でも鉄製のピックを利用するらしいから、六角レンチなどを使って頑張って穴を開ける。穴を開けて岩を割ることを繰り返し、岩の上を這って、外に抜け出せるスペースができるまで大岩を削り切る。作業は粉塵対策として水をかけながら行う。

一階が浸水するまでなら三週間の時間があるが、発電機が一週間で切れるから実質、タイムリミットは一週間だろう。

①〜③までのアプローチが全滅した後に辿り着く、もっとも非現実的なこのアプローチ。個人的には割と気に入っていたりします。

 

 

③モニターの入れ替えがあり、脱出路が非常口(水没ルート)である世界線

原作通りの世界線である。メンバーに原作通りのブラック麻衣がいる。

水没ルートが脱出口である情報はブラック麻衣によって隠され、殺人まで起こるという悪夢のような世界線である。

 

結論としては、どうしようもありません。裕哉くんが殺されることを防ぐのが、そもそも無理ゲー。

「②モニターの入れ替え無し、脱出路が出入り口(岩石ルート)」で述べた4つのアプローチを提案しようものなら、余計なことをするなとブラック麻衣に殺される。さやかよりも先に殺される。

唯一、可能があるとしたら、あなたが柊一だとして、柊一のピュアなところに、ホの字である麻衣の心につけ込むしかない。

犯人探しをやめて8人で生還しようというビジョンを打ち出し、みんなに勇気と安心感を与える傍ら、旦那にバレないよう細心の注意を払って、麻衣とセッ◯スをする*2。あなたなしでは生きていけないレベルまでブラック麻衣を篭絡できたらば、ワンチャン、自分が殺人犯であることとモニターの映像をすり替えたことを、泣きながら教えてくれるだろう。

そしたら、あなたは再びみんなの前に立ち、自分が犯人だと宣言して麻衣を庇いつつ、脱出した後は刑務所に突き出してくれていいからとりあえずみんなで脱出する方法を考えようとムシよい話をして場をまとめる。

こうなってはじめて「①モニターの入れ替え無し、脱出路が非常口(水没ルート)」で述べた脱出アプローチが使える。

まぁ、十中八九、麻衣に殺されるでしょう。

 

 

④モニターの入れ替えがあり、脱出路が出入り口(岩石ルート)である世界線

こちらもほぼ原作通り、ブラック麻衣と一緒に閉じ込められている状況だが、③と違うところは、脱出経路が岩石ルートである点だ。

つまり、麻衣がブラックだったとして、モニターを入れ替えたり、裕哉を殺したりする動機がないのである。

モニターの入れ替えそのものが発生しようがないゆえに、仮定として成立しない世界線だから検討のしようがない。

つまり麻衣がブラックであろうとホワイトであろうと、岩石ルートが脱出経路である場合は「②モニターの入れ替え無し、脱出路が出入り口(岩石ルート)」で述べた脱出アプローチがそのまま使える。

 

 

⑤原作の世界線(麻衣が大岩を落とした後)

絶望の絶叫をあげた五人と主人公が、スマホのライトを頼りに、食堂に集合している状況を想定する。絶望した男どもによる花ちゃんのレ◯プパーティーがはじまったり、食料が尽きて溺死するまでカニバリズムで食い繋いだりと、世も末の惨劇が繰り広げられる展開など筆者は到底享受できない。

出入り口は塞がっている。
非常口ルートへの経路は大岩に塞がれている。
電気は発電機の燃料が切れて使えない。

この絶望極まった状況から、なんとか五人を方舟から脱出させられないか。もはや、脱出プランではなく脱出パターンとしてしか語れないが、必死に考えてみた。

 

 

【脱出パターン①】心配した登場人物の関係者が通報し救助される

アホか、と言われるかもしれないが、このように救助される可能性が0%ではないことに言及しなければならない。

さすがに一週間も職場に出てこなければ、職場は家族に確認をする。登場人物の家族、友達、花ちゃんの彼氏は、職場からの連絡を不穏に思うはずだ。そうして通報が入り、警察が動く。そのような展開がないわけではないのだ。

加えて、昨今のスマートフォンには電波の届かない山の中でも使える「探す機能」がついている。こうした機能を駆使して、助かった遭難者の実例がある。

 

なお、無事に山を降り、保護された麻衣が、方舟の中にとじ込められた人を助けるべく行動を起こすことは無いと思われる。三人を殺したことを知る五人には死んでもらったほうが、麻衣にとって都合がいい。方舟とは離れた場所を警察に伝えたり、すでに全員死んだなどの偽の証言をされる可能性すらあるから、麻衣には遭難していただくことを願うしかない。

 

 

【脱出パターン②】第三の出入り口を探し出す

冷静に考えていただきたい。人間ひとりしか出入りできないような小さな穴から、発電機や排水設備、大岩のような大掛かりなものを運び込めるだろうか。

新興宗教団体に、そこまでの土木技術があるはずがない。つまり、大掛かりな設備を運び込むための第三の出入り口が地下1階に存在する可能性が高い。

それは埋め立てられて、隠蔽されているはずだ。

地下1階の壁を叩いて音を確認することで、隠された第三の出入り口を探し出し、無事に見つけられたら五人揃って脱出できるだろう。

 

 

【脱出パターン③】非常口ハシゴまでの経路を開拓

こちらは『①モニターの入れ替えが無く、脱出路が非常口(水没ルート)である世界線』で書いた【脱出プラン②】と同じ発想である。

しかし、状況が相当に異なる。発電機の燃料が切れていて、古いチェーンソーが使えない。しかも、地下2階は1メートル水没している。

それでも、地下2階の219号室と220号室の間にある床に穴を掘り、非常口のハシゴまで数メートル泳げば到達できるようなルートを作り出すことを試みなければならない。

掘るのは、壁でも良い。具体的には、地下2階の219号室と220号室が接している壁、地下1階の119号室と120号室が接している壁、この二つである。

地下2階で作業をする場合、水没しているから土は柔らかくなっているはずだし、鉄板も剥がしやすくなっているはずだ。地下1階の壁に穴を開ける場合、浸水の影響を受けずに作業ができるメリットがある。

いずれにしても、視界の暗い中、鉄板を剥がして掘るしかない。とにかく非常口のハシゴまでの道を作らなければならない。

 

 

【脱出パターン④】出入り口からの脱出を図る

監視カメラから眺められる出入り口の上げ蓋周辺の様子については、次の様に描写されている。

写っていたのは、大量の土砂に埋められた枯れ野原の様子だった。土と一緒に、倒木や巨大な岩がゴロゴロと堆く積み上がっていた。到底、人力では動かせそうにない。

夕木春央. 方舟 (講談社文庫) (p.63). 講談社.

つまり、映像ではそう見えるというだけだ。実際は土砂が薄く積もっているだけかもしれないし、上蓋のすぐ上にだけは倒木や巨大な石が積み上がっていないかもしれない。

設定を無視した詭弁と言われるかもしれないが、それを言うならこちらにだって言い分がある。ここまで書いた全てのアプローチが通用しないなら、作中の設定すべてがコメディじゃないか。知ったことか。

話を戻す。もしかしたら蓋の上の状況は、そう悲観的ではないかもしれない。だが、それでも上蓋を開くことは難しいだろう。漫画のシーンを確認すると、マンホールのように地下側に蓋を引っ張り出せない構造になっている。

 

ならばどうするか。ここで「出入り口のハシゴ」の画像を再度みていただきたい。


壁に独特の特徴がある。石を嵌め込んでいるだけのつくりになっている。すると、この石を強引に一つ一つ引き剥がし、マンホール以外の脱出口を作り出すこともできなくはなさそうだ。

地上まで距離はそう遠くはないはすで、土砂崩れで埋まった部分の土は掘り進めていける程度に柔らかいと考える。もし、岩石や倒木に突き当たったら迂回して、モグラのように出られる場所を掘り当てていく。

暗闇の中、スマホのライトを頼りに、ハシゴで作業を行うため、非常に危険であるが、やるしかない。皮肉なことに時間だけはある。地下一階のハシゴが浸水するまでに二ヶ月以上あるのだから。

 

 

【脱出パターン⑤】また地震が起こる。

一度あることは二度あるでしょう。

また地震が起こって、出入り口まわりの土砂が全て押し流され、上げ蓋がパカっと開く。

ちなみに、麻衣は土砂流に巻き込まれて、生き埋めだ。

 

 

【脱出パターン⑥】柊一くんへの未練を捨て切れなかった麻衣が、警察や自衛隊を引き連れて、のこのこと戻ってくる。

 

 

【脱出パターン⑦】排水設備を叩いたら直った。

 

 

 

おわりに

『方舟』は映画化されると考えている。

映像になった時は、これらのアプローチが通用するかどうかを考えながら観る予定である。個人的な予想としては、大岩のある部屋の床がガチガチの鉄板になり、タンクの残り酸素量は10分になるだろう。古いチェーンソーで鉄扉を破壊しようとして失敗するシーンと、巻き上げ機のレバーをロープで引っ張ったけれど動かないといった描写も挿入されるか。どのみち楽しみである。

 

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十戒

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*1:防水対応していないスマートフォンは当然、パックに包んで対策

*2:柊一がまったくピュアじゃないとツッコんではなりません。不貞はキスからであり、柊一くんの心は初めから汚れています。